土地家屋調査士とは何をする仕事?調査・測量の専門家の役割とは
「土地家屋調査士」という職業を聞いたことはないですか?急に訪ねて来て、土地の境界を聞かれたことはありませんか?
土地家屋調査士とは不動産に関する権利を明確化し、国民の財産を守るための職業です。そのために「不動産の表示に関する登記」及び「不動産の測量・調査」を行います。土地家屋調査士は法務省の管轄の国家資格であり、資格を取得し、登録された人でなければ業務を行うことができません。
この記事では、土地家屋調査士の仕事内容や役割について解説していきます。
土地家屋調査士の使命ってなに?
第一条
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与し、もつて国民生活の安定と向上に資することを使命とする。
上記は土地家屋調査士法第一条の条文です。記載の「不動産の表示に関する登記」及び「土地の筆界を明らかにする業務」について詳しく説明します。
不動産の表示に関する登記の専門家
不動産登記には「表示に関する登記」と「権利に関する登記」の2種類が存在します。不動産登記制度とは[どの]不動産が[誰の]物であるかを明らかにし、取引の安全を守るための制度です。ざっくり言うと、[どの]の部分が表示の登記に当り、[誰の]の部分が権利の登記に当ります。この[どの]の部分に該当する「表示に関する登記」の専門家が土地家屋調査士になります。
つまり、「表示に関する登記」には不動産を特定する役割が求められます。土地であれば、所在(○○市○区○町○丁目)、地番(○番○)、地目(どのように利用されているか宅地・田等)、地積(土地の大きさ)、原因及びその日付(いつ登記されたか)が記載されます。建物であれば、所在(○○市○区○町○丁目○番地○)、家屋番号(○番○)、種類(どのように利用されているか居宅・店舗等)、構造(木造・鉄筋コンクリート造、瓦の種類、何階建か)、床面積(建物の大きさ)、原因及びその日付(いつ登記されたか)が記載されます。人間でいうと住所・姓名・年齢・身長・体重・経歴みたいなものだと思いませんか?不動産の登記記録でこのような情報が記載されたところを「表題部」と言い、表題部が現況と正確に一致することによって「権利に関する登記」が有効になります。逆に言うと、「表示に関する登記」を怠り、「表題部」が現況と一致しないまま不動産取引を行うと、「権利に関する登記」の範囲が不明確になり、紛争に発展する恐れがあります。
土地家屋調査士は登記記録の表題部に現況を正確に反映させるために、不動産の表示に関する登記手続きの代理や調査・測量を行っています。
土地の筆界(ひっかい)を明らかにする業務の専門家
ご自身の所有の土地の境界ってご存知でしょうか?実は土地の境界って数種類存在しています(筆界、所有権界、占有権界等)。土地家屋調査士はその数種類存在する境界の中でも筆界についての専門家になります。
不動産登記法第百二十三条第一号
筆界 表題登記がある一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。
筆界について条文では上記のように記載があります。簡単に言うと、筆界とは登記された土地と隣地との境界です。また「公法上の境界」とも呼ばれ、所有者同士の合意等によって移動することはありません。登記によってのみ創設されたりなくなったりします。
土地家屋調査士は様々な資料に基づき現地における筆界の位置を明らかにします。筆界を明らかにすることによって、正確な土地の面積を登記に反映することができるようになります。また、土地家屋調査士は筆界の専門家として、境界紛争の場面においても重要な役割を担うことを期待されています。
土地家屋調査士とは何する仕事?
土地家屋調査士の業務内容についてもう少し具体的にご紹介します。土地家屋調査士は大きく分けて5つになります。
不動産の表示に関する登記に必要な調査や測量
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記で不動産の現況を登記記録に正確に反映させるために、不動産の調査や測量を行います。具体的には法務局の登記記録や備え付けの地図や測量図の調査、役所に保管されている資料の調査、現地の物理的状況の調査、近隣の土地所有者にも聴き取り調査等を行います。この調査を基に土地家屋調査士は、筆界確認書を作成したり、図面を作成したりします。この図面は不動産を特定する上では重要な役割を果たし、筆界確認書と合わせて筆界の位置を示す大切な書類となります。
表示に関する登記の申請の代理
不動産の表示に関する登記の多くは土地所有者に申請義務が課せられています。土地家屋調査士はその表示に関する登記の申請を代理して行うことができます。申請の手続きは申請書を作成するだけではなく、法務局の求める書類を揃えて添付する必要があります。土地家屋調査士は申請手続きの代理だけではなく、必要書類の収集あるいは作成の代理もします。申請から登記完了まで滞りなくできるようにしています。
表示に関する登記の審査請求手続の代理
表示に関する登記の審査請求とは、登記官の処分が不当であるとする者が法務局又は地方法務局に対して行う不服申し立てです。例えば、登記官が全く登記を受付けてくれなかったり、申請の内容に対して登記された内容が間違っていたり、他人が登記した内容が自分にとって不利なものであった場合等です。表示に関する登記の審査請求手続きは土地家屋調査士が代理します。
筆界特定の手続についての代理
筆界特定とは、一筆の土地と隣接土地の間の筆界の現地における位置若しくはその範囲を特定する手続きです。申請することにより、所割の法務局または地方法務局の筆界特定登記官が筆界特定を行います。
土地の表示登記で土地の面積を変更または更正(正しく修正すること)する場合には、その土地の筆界が明確である必要があります。通常、土地家屋調査士が調査した筆界を法務局に報告しますが、その根拠の1つとして土地の所有者同士で取り交わした「筆界確認書」を提出する必要があります(例外有)。しかしながら「筆界確認書」を取り交わすことができないことが稀にあります。例えば、筆界について争いがある、隣地の所有者が不明または連絡が付かない等です。そういった場合に対象の筆界について筆界特定をすることで、登記申請が受理されます。
筆界が明らかでない場合の争いについての民間紛争解決手続の代理
民間紛争解決手続とは裁判外紛争解決手続(通称ADR、Alternative Dispute Resolution)の1つです。土地家屋調査士がかかわるものを筆界ADRといいます。裁判によらず、より早く低コストで柔軟に争いを解決すること目指す制度で、所有権界の合意や和解で解決する制度です。
「筆界特定」であれば、登記することは可能ですが、後に争いが残る場合があります。例えば、越境等の問題です。筆界を超えて塀や建造物があり、境界について争いがある場合、「筆界特定」で登記が完了しても争いが解決したとは言えません。この様な場合には筆界ADRを用いて解決することが適しています。
土地の境界の紛争は筆界が明らかでないことが原因であることがほとんどです。そこで、筆界の専門家である土地家屋調査士が土地境界に関する専門知識を提供し、弁護士と共同代理という形で受任します。
なお、土地家屋調査士が筆界ADR業務を行うには、特別研修を終了し「認定土地家屋調査士」の資格を持っていなければ受任できません。
土地家屋調査士の代理業務とは
土地家屋調査士の業務のほとんどが代理業務です。代理ですから不動産の所有者等から依頼を受けて初めて業務を行えます。
自分で登記することはできないの?
不動産登記は自分で登記申請することが可能です。これを本人申請といいます。最近はインターネットで調べれば情報がたくさん出てきます。自身で調べるか、法務局には相談窓口があるので予約して利用することがおすすめです。
本人申請のメリットとしては、お金がかからないことです。代理ができる資格と知識を持つ専門家に支払う報酬は決して安くありません。自分で登記をすれば報酬を払う必要はありませんから大きなメリットと言えます。
デメリットは登記申請の提出書類を作成したり集めたりするのに手間・時間がかかる点、専門家でない人には難しい点、専門家のアドバイスが受けられない点等です。特に図面を作成する必要がある場合は非常に難しいです。また、法務局や役所に何度も行くことになります。開庁時間も限られるため、平日仕事をしている方は難しいでしょう。登記申請後も完了までに法務局の現地調査が入るため時間がかかります(土地家屋調査士が代理申請した場合省略されることが多い)。
時間に余裕がある方は試してみても良いかもしれませんが、基本的に専門家(表示登記の場合は土地家屋調査士)に依頼する方が良いでしょう。
代理人として
一般の方に不動産の表示に関する登記を経験する機会は、一生の内に何度もあるようなものではないはずです。方法も難しいですから、さらっと簡単に済むものではありません。しかしないがしろにすると、後々困ることになる問題も多いです。
土地家屋調査士は不動産の表示に関する登記の専門家として、依頼者が困ることのないよう誠実な対応を心掛けています。また、登記をきちんとするという事は第三者の権利を守ることにも繋がります。土地家屋調査士は単に依頼者の代理人としてだけではなく、公共的な立場として公正であることも心掛けています。
土地家屋調査士と似ている資格
土地家屋調査士は今はまだマイナー資格であると言えます。司法書士や測量士という有名な資格と混同されて間違われることもよくあります。司法書士と土地家屋調査士はどちらも「登記」をする職業です。測量士と土地家屋調査士はどちらも「測量」をする職業です。どちらも業務内容がよく似ていますが明確な違いがあります。その違いについて紹介します。
土地家屋調査士と司法書士
「登記」にはさまざまな種類があります。その中でも、土地家屋調査士も司法書士も手続代理をすることができるのは「不動産登記」です。「不動産登記」は「表示に関する登記」と「権利に関する登記」と大きく2つに分けることができます。「表示に関する登記」を「土地家屋調査士」が代理し、「権利に関する登記」を「司法書士」が代理します。
「表示に関する登記」では不動産の状況を記録します。土地を分割したり、建物を新築・増築したりした場合等に登記が必要です。「権利に関する登記」では不動産の権利関係を記録します。売買や相続によって所有権が移ったり、ローンを組んだりした場合等に登記をします。新築建物でイメージすると、新築建物がどんな建物でどこにあるかを「土地家屋調査士」が登記、新築建物が誰の所有でどこの金融機関のローンの担保になっているかを「司法書士」が登記します。土地家屋調査士が物的状況、司法書士が法的状況の登記というイメージです。
土地家屋調査士と測量士
「土地家屋調査士」も「測量士」も同じ「測量」を業とします。大きな違いは「登記」ができる「測量」であるかどうかです。
土地家屋調査士は「登記」のための測量をします。そのため境界(筆界)の知識や登記するための知識が求められ、「法務省」管轄の資格になります。
対して測量士は測量のプロであり測量全般に携わることができます。例えば、道路や建設現場等のインフラ整備のための測量や、公共事業用の測量をします。そのため、測量士は「国土交通省」管轄の資格になります。
土地の測量に関しては測量士も測量することはできますが、測量士が作成した図面を使って「登記」することはできません。「登記」必要になりそうな測量、土地の境界に関する測量は「土地家屋調査士」に依頼してください。
土地家屋調査士になる方法は?
土地家屋調査士になるには、まず「土地家屋調査士試験」に合格する必要があります。土地家屋調査士試験に合格することで資格者となります。土地家屋調査士試験は難関資格であると言われています。試験は相対評価で400人程度が合格し、合格率は10%前後であることが多いです。試験では民法、不動産登記法、土地家屋調査士法等の知識が問われます。
試験に合格した土地家屋調査士の資格者が土地家屋調査士になるには、日本土地家屋調査士会連合会に備える土地家屋調査士名簿に登録し、各地の土地家屋調査士会に所属する必要があります。ただし、土地家屋調査士の登録にも手数料が必要ですし、会に所属するには会費が必要です。ですから、試験に合格した資格者も、すぐに登録はせずに先輩土地家屋調査士の下で補助者として修業する人が多いです。
まとめ
土地家屋調査士は「不動産の表示に関する登記」及び「土地の筆界を明らかにする業務」の専門家として、不動産の取引の安全を守る職業です。
皆様の大切な財産を守るために業務に関する法令・実務に精通している必要があります。法律は毎年少しずつ改正されますし、測量技術も日々進歩しています。依頼者及び社会の要請に応えられるように常に資質の向上を図るよう心掛けています。
「土地家屋調査士」という職業はまだまだ有名ではありません。初めて聞いたという方も多いでしょう。「土地家屋調査士」として実務を通じ、皆様の依頼に誠実に応えていくことで、「土地家屋調査士」という職業の名前を、少しでも多くの人に知っていただけると幸いです。